大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和43年(行ツ)100号 判決

兵庫県西宮市丸橋町二-二七

上告人

森行直

広島県尾道市東御所町

被上告人

尾道税務署長

吉岡実

右当事者間の広島高等裁判所昭和四二年(行コ)第六号、同第一三号審査決定取消請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が昭和四三年六月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論のうち原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の違憲をいう点は、その実質において単なる法令違背の主張にすぎず、採用するに足りない。また、その余の所論の点に関する原判決の認定判断は、挙示の証拠に照らし相当として首肯することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を非難するか、あるいは、原判決の適法にした事実の認定を非難するものであつて、すべて採用することができない。

なお、上告人提出の上告理由補充書は、いずれも上告理由書提出期間の経過後に提出されたものでああるから、これに対しては判断を加えない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 坂本吉勝)

(昭和四三年(行ツ)第一〇〇号 上告人 森行直)

上告人の上告理由

第一点

原判決は日本国憲法第二九条、同三〇条に違反している。

一、憲法第二九条財産権はこれを侵してはならない。

二、原判決は被上告人が審査決定によつて上告人の財産を税金として徴収した。上告人は審査決定の取消を求めたるに棄却した。財産権の侵害である。

三、憲法第三〇条。国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う。

四、原判決は上告人がその納税の義務を果したるに審査決定によつて蹂りんせられた。その義務を負う権利の回復を求めたるにそれを棄却した。国民権利の侵害である。

第二点

原判決には判決上影響を及ぼすことの明かな所得税法、所得税法施行規則、所得税通達等に違反する。(註ここは法、条、号、を記するに止める。)

所得税法第一条の六。同第六条の六。

所得税法施行規則第四条の三の1、2、同第一二条第一三項(同第一二条の四の一)

所得税通達昭和二八年直所一-八八。同年直所一の八八直資五-三四、同三六年直所一-八五直資一一三の一。同、同年、直所一の八五直資一一三の二。国税通則法八一条、協議団令第五条。

第三点

原判決の譲渡所得金二八万二九五〇円の判断には齟齬、違脱の違反がある。

一、原判決三枚目表一一行、成立に争いのない乙第一、第一六、第二一号証と記述されている。成立に争いがないとの判断に遺脱がある。乙第一号証については代理弁護士よりその連絡を受けず反論もしていない点は上告人の誤りである。が第二一号証の意志表示によつて争いがないのでないことを理解して頂きたい。

乙一六号証第二一号証については上告人が提出した昭和四二年一二月一八日附準備書面二枚目裏一〇行、イ訴外高木喜夫との応答書乙第三号証、として弁論している。ここに上告人転写の誤りがある。

それは二一号を三号とした(原稿に二一と書いたのを三と転写した)然し題名は質問応答書として正しく記述してある。

二、乙二一号証、質問応答書の要点は、二頁八行一〇〇万円で買つてほしいと言つた。一三行、ねぎられて六〇万円で売つた。一四行。私が売却した後昭和三四年夏頃から、その附近の地価がどんどん昇つているのです。三頁三行。前にも申しました通り私は六〇万円で森行さんに売却したことは間違いなし昭和三四年夏頃から附近の地価の値上りが激しかつたので森行さんは相当儲けられたことは確実ですと、答えたことを広島国税局勤務広光喜久蔵が証言している。この証言で明確になつたことは、(1)、一〇〇万円と言つたが六〇万円にねぎられた。(2)、三四年夏以前に売つた、の二点である。上告人の買取つたのは登記が示す如く一〇月であり夏以後である。高木が言う値上り後である。

証言は虚構である。と共に証人高木は自らが利益を得ていることを問わず語りに立証している。

三、乙一六号証以下二二号証までは被控訴人が第一審の敗訴を挽回せんとして提出したのである。之は高木の弱点を利用してなしたるものと考える。

之に対し上告人は四二年一二月一八日附準備書面二枚目裏一〇行より詳しく反論し証拠として価値なく虚構であり、一部は上告人に於て利益に引用する旨を論証した準備書面を提出した。その要点は乙証の論証事点は三四年四月のこと、即ち地価高騰以前のことである。上告人が買入れは一〇月である。

裁判所はこの重要準備書面を判断から遺脱した。齟齬である。

四、反駁された被上告人は更に臆面もなく高木を証人として法廷に呼出し泣きごとをならべ同情を求めさせた。一二〇万円と言つたが六〇万円にねぎられたこと。之によつて上告人がいかにも極悪非道の者と解せしめんと計つたのであろう。判決は希望通り上告人の敗訴となつた。

ここにも高木の虚構がある。乙第二一号証では一〇〇万円と言い、法廷証言では一二〇万円と言つた。虚構の証拠である。斯くの如き証言は証拠とはならないと信ずる。一二〇万円と希望して六〇万円で売る如き馬鹿がありませうか。この面から観察しても虚構は立証される。

原判決四枚目裏二行右土地建物を六〇万円で控訴人に売つたのと認められる。と判断した。以上の陳述によつてこの判断は齟齬遺脱であると信ずる。

五、原判決四枚目裏二行。右認定に反する原審証人藤井利一の証言。原審当審に於る控訴人本人尋問の結果は信用出来ないし他に右認定を左右するに足る証拠はない。と判断した。齟齬遺脱である。

上告人は非課税を信ずるが故に確定申告をなさず更正決定も受けず。一二〇万円で買つたと始終変らぬ発言をした。この土地を上告人に紹介した藤井利一氏も上告人の主張を正しいと証言した。これに反し被上告人証人の証拠及証言はしどろもどろなるに裁判所は之を正しいと認めた。かえつて他に右認定を左右するに足る根拠はないと判断した。それ共上告人及び藤井証人の証言が信用出来ない証拠は明示していない。上告人は証拠をあげて反論した。第一審で上告人が勝訴となつたのは両人の証言を認めた故だと信ずる。

六、正確な判断を希望するので今日までの経緯を記述する。

1. 確定申告。譲渡所得の免税点たる一五万円を利益として売却せし故申告せなかつた。註、この土地を売却した理由はその後他に良い住居を入手したので不要となり売却した。

2. 更正決定、は受けなかつた。従つて再調査、審査の両請求はせなかつた。

3. 審査決定は譲渡所得二八万二九五〇円とした。註、株式取引所得について不当な更正決定を受けたのでそれの審査請求をした。所得は更正決定より三〇〇万円減少したので何とか補填せんとしたらしい。更正決定をした上野事務官の先輩にして同郷縁籍の菅川丈夫協議官が協議団の本件の担当者であつた。この決定は国税通則法第八一条及協議団令第五条に違反し且九ケ月の長期を要した。全くの官権乱用である。

4. 第一審判決では勝訴した。

5. 第二審に被上告人が提訴した。

6. 四三年六月二七日二審判決で敗訴したのである。

七、被上告人が乙一号証。同一六号以下二二号証までの証拠証及び法廷で証人として立つた高木は上告人が買つた土地の売主である。申添える。被上告人はこの脱税者を証人に利用した。裁判所はそれが正しいと認めた。齟齬である。

殊に五項3に記述の如く被上告人が一方的に官権力の暴挙によつてなされたことである。慎重な検討を切望する。

八、以上によつて判決の齟齬遺脱違法を陳述した。

第四点

原判決は齟齬、遺脱による違法な違反である。

一、原判決五枚目表二行から八行までにおいてなされたる判断は所得税法を無視してなされたる齟齬遺脱の判断で違法である。

二、上告人が確定申告に特許料として申告したるは所得税法第一条の六所得税法施行規則第一二条第一三項に基づき収入五〇万円償却二八八、五〇〇円差引所得二一一、五〇〇円である。納税した。(支出明細は添付した)

三、更正決定を受けなかつた従つて再調査請求。審査請求をせなかつた。

四、株式取引所得の審査請求をなしたるにその決定の通知に際し特許料を設計料と変更してその全額を課税対象とした。この処置は国税通則法。第八一条違反であり、審査決定に際しては協議団令第五条に違反したる不当な公権力による決定である。

五、第一審判決では設計料と認め上告人の主張する特許料は認めなかつた。敗訴した。

六、第二審では設計料でなく特許権料として認められた。けれ共法第一条の六及規則第一二条一三項に基づかぬ判断である。齟齬遺脱にて法に違反した判決である。

七、原判決表五枚目八行、未だに減価償却をなすべき対象とならない。と判決している。所得税法施行規則第一二条一三項に違反する齟齬にして遺脱違法である。

八、よつて二項の法に基づいてなした上告人の主張が正しいと信ずる。

第五点

判断は上告人三五年度株式取引所得が課税対象なりとする審査決定が、不当なりとの主張に対する判決として齟齬、遺脱、違法の違反である。

一、原判決五枚目表九行より同裏五行までの判断は被上告人が昭和四〇年四月一日附にて提出したる二〇枚の大部の証拠説明書に記述した主旨を要約したものである。即ち株主の地位において取得したる増資新株の取得価格を決定する所得税法施行規則第一二条の四第一項によつてなされたものである。

従つて本件の課税対象の判定資料として何の関係もない事項である。にもかかわらずこれを判断の重要資料として引用したことは極めて重大な齟齬遺脱であり法に違反する。

二、裁判所は判断に際し上告人が昭和四三年一月一三日附準備書面にて五枚に亘る詳細な陳述と懇切に説示した比較表とを遺脱した。重大な齟齬であると信ずる。

この準備書面は上告人自身が自己の名誉にかけて難解の税法を調べ体型を整えたと自負する原稿をしたため、秦野弁護士が加筆し提出した。上告人にとつては極めて貴重な且つ重大な準備書面である。

裁判所はこれを遺脱した。重大な齟齬遺脱と信ずる。

三、被上告人は之に対し準備書面を提出しない。このことは反論すべき何もなき迄に弁論されたためであろう。被上告人は自己の非を認めたものと考える。

四、四三年一月一三日附準備書面の概要を記述する。

1. 上告人は三五年度株式取引所得が法第六条の六(第九条の一一)により非課税対象と主張する。に対し被上告人は課税対象としたことの不当についての訴訟である。

2. 株式取引が課税か否かについては所得税第四条三の二、所得税通達二八年直所一-八五。同二八年直所一-八五直資五-三四によつて年間の取引回数が五〇回二〇万株以下は非課税と規定としている。

3. 所得税通達昭和三六年直所一-八五直資一一三の一において『増資新株の性格』を明示している。即ち『所得税法施行規則第四条の三第二項に規定する株式(有価証券の継続的取引から生ずる所得の範囲)の『売買』には株主たる地位に基づく増資新株の引受、……は含まない』である。

4. 取引回数は法六条の六(法第九条、一一)イ継続して有価証券を売買することによる所得で命令で定めるもの、と定め『売買することによる所得で』と明確に指示している。このことの逆説は所得は売買によつて得るである。よつて売と買とで一取引回数であつて被上告人が言うごとく売と買とを別々に計上することの誤りが明かである。

5. 三七年六月審査請求をした。同七月広島国税局協団より本件担当の菅川丈夫協議官来宅した。曰く提出の一覧表は証券会社の売買台帳により記号、番号を売買共に引合せたか。と答、それは証券会社に依頼して提出して貰つたのであるから不明です。曰く、それは照合せねば証拠として認めない、と言う。答、その引合せは困難であり払込みの増資新株の記号番号は証券会社には存在しないから不可能だと言うと。曰く不可能に近い。それで所得を三百万円減じて上げるから審査請求を取下げないか。と言う。上告人は左様な不合理は承認しない、命令の通り調査すると言い猛暑中十日間程を費して作製提出した(当時尾道税務署直税課長は出来ましたね、普通の人には出来ませんよと上告人の前歴を知る同代が言つた)九ケ月後の三八年八月審査決定をした。

その内容は取引回数六三回(売三七回買二五回)取引株数二五三、一〇〇株損益七〇五万二三九四円とした。

この六三回の中には通達によつて含まないとする。株主の置位にて取得した払込みによる増資新株を加算した通達無視の横暴がある。これを要約すれば年間の取引回数五〇回以下にして二〇万株(改正して)以下なれば非課税である。

6. 上告人は取引回数は菅川協議官指示に従つて売買を別々に計算し(但し新株を除く)合計して四六回(売三五回買二一回の内花王売四号の二回を一回として控除すれば三四回となる。これから新株九回を控除すれば二五回となる)損益二、二〇万四六九九円と主張した。四の四項に弁論の取引回数の解釈に基づいて四三年一月一三日附準備書面にて二五回一九万二〇〇〇株損益二二〇万四六九九円と変更した。非課税である。尚準備書面には第一審判決に添附した。有価証券取引内容一覧表、を引用して懇切に説明した比較表を添附し裁判所及被上告人の理解を求めたのである。

7. 被上告人主張の取引回数五六回と上告人主張の二五回の差の原因は

1. 被上告人は取引回数を売と買とを個別に計上し(売三五回。買二一回)を合計したこと。

2. 被上告人は所得税通達三六年直所一-八五直資一一三ノ一を無視して新株の取引を継続的取引に計上したこと。

3. 上告人は取引回数は売と買とを合せて一回とする。

4. 新株は取引から除外する。

五、上告人の確定申告から今日迄の経緯を陳述する。

1. 株式取引所得に関する三五年度確定申告は所得税法第六条の六に基き申告せず。

2. 昭和三七年三月。何等の理由も明示せず又尋ねるも答えを拒否し雑所得として一〇四七万五二〇〇円の更正決定をした。

3. 再調査請求をした。理由記入なきにより受付けず返却して来た。よつて担当上野義信事務官に理由なき故再調査請求を受理せない。理由を示されたしと要望したところ漸やく株式取引所得と言う。取引回数の明示を求めるも回答を拒否し且つ離席して帰らず、翌日行くと姿を見るや席を外して帰席せず。誠に言語同断の官僚独善の横暴である。止むなく取引の備南証券に命じて取引明細の提出を得て之を添附して再調査請求をした。

4. 取引回数五〇回以下なれば当然更正決定の取消があると考えていたが期日最終日に理由なしとして棄却した。この棄却決定も官僚独善の横暴である。尤もこの間に石原事務官はその同僚と共に「話しませう」とて両三回来訪し雑談して帰られた其真意は何か不明である。

5. 審査決定は取引回数六三回であつたが昭和三八年二月一七日、被上告人準備書面には取引回数五六回(売三五回買二一回)株数二五三、一〇〇株損益七〇五万二三九四円であり取引回数で六回減少した。これは国税通則法第八三条に違反する行為である。

6. 上告人は八項のことに気付くまで取引回数四六回損益二百二〇万四六九九円と主張した。

7. 上告人は四三年一月一三日準備書面で取引回数二五回株数一九二、〇〇〇株所得二二〇万四六九九円なりと主張した。

8. これを要約すれば確定申告、法第六条六により無税につき無申告

更正決定、取引回数なし、損益一〇、二六三、四〇〇円。

審査決定、取引回数六三回、損益七、〇五二、三九四円。

準備書面、取引回数、五六回、損益七、二二五、七四七円。

上告人準備書面、取引回数、二五回、損益二、二〇四、六九九円。

9. 八項より類推すると、更正決定がでたらめで公権力により押付けた不当であり、以下はこの不当を税務署の主張のために、ゴリ押しした。

上告人は国法に従つて正しく主張し続けたことを認めて頂きたい。

第六点

原判決は五枚目裏六行。成立に争いのない甲一三号証の判断は違法にして齟齬、遺脱の違反がある。

一、原判決五枚目裏六行から一〇行迄の判断は、上告人が昭和四三年一月一三日附で提出した準備書面二枚目表八行から裏八行までの陳述を遺脱した。判断である、よつて違法にして齟齬である。

二、上告人は第一項書面によつて甲第一三号証提出の理由を明かにした。

其概要を記述する。上告人は昭和三三年頃から会社業務多忙の為、従来より取引の訴外備南証券株式会社専務取締役岡田益三氏に売買に関する一切を委任した甲第一三号証はその事実を証拠づけるための証拠である。この証拠を否認した否認の証拠は示されていない、齟齬である。

三、所得税通達三六年直所一-八五直資一一三の(2)「株式又は出資の売買の回数」に基づいて取引回数は一回としたのである。

判決五枚目七行、数多の取引が一箇の取引となるものではないと判断している。所得税通達の遺脱の齟齬である。

第七点

原判決は齟齬、遺脱、違法に基づく判断で違反である。

一、原判決は五枚目裏一一行以上の次第で、としての判断は違法である。

以上の次第で、との判決の『次第』が上告理由第六点までの弁論の如く齟齬、遺脱、違法である。

判断の基盤が齟齬遺脱違法であるから之に基づく判断は正鵠を期し得ないと信ずる。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例